ストーリー

21話

フェアじゃない

 俺の日常は、ただの一日であっていいはずがない。
 そうだ、今でもそう思う。
 でも、この状況は望んだものじゃあ、ない。
「何、いってるの。あなたたち」
 小さな子どもを連れた女性にさげずんだ目で睨まれて、何度目かわからないがそれでも心臓が冷えていった。暑さから流れ落ちる汗の感覚を追いかけて、彼女の視線と向き合うのを避ける。
「すみません」
 曖昧な笑顔を貼り付けたルルが謝って、三人で逃げるように退散する。女性の小言がきこえたが、きこえなかったふりをした。
 炎天下の中、三人で突っ立って、道行く人を眺める。ルルがハテナをおこしている人物を見つけたら声をかけて、あなたはハテナをおこしている、と説明する。そのあとは毎度、同じ流れだ。
 ハテナが視えるだなんて信じられない、自分はハテナを起こしていないといわれ、怪しいものを見る目で睨まれる。
 俺は木の中に来て最初に会ったのがジャスミンだった。ジャスミンは嘘をつくような人ではないと思ったから、今までの日常にないものの話をされても信じた。
 だがここで普通に暮らしている人はハテナのことを知っているが超人のことは知らない。今まで日常にいなかった『ハテナを見ることができる人』が現れても、そんな話を信じることができないらしい。
「うまくいかないものだな」
 レトは虫の居所が悪いらしく、言葉こそ慰めるようなセリフだが、ぶっきらぼうに言い放った。こいつの態度が、ますます俺を居心地悪くさせる。
 最初はレトも不機嫌そうではなかった。どちらかというと昨日ストックに挑発されたせいか、熱意に満ちていたと思う。だが嘘つき呼ばわりをされ続け、昼を超えたあたりからはもう、この様子だ。
 俺たちは、少なくとも俺とレトは嘘をついているわけではない、ルルが適当なことをいっていない限りは。それなのに、不審人物扱いだ。不機嫌になるのもわかる。
 例えば説明をするのがストックや、ジャスミンだったら何かが変わっていたかもしれない。でもここにいるのはルルだ。最初に会った時ではなく昨日、ラズラに説明をする途中で自分は超人だと告げたルルだ。胡散臭い。街の人が信用できないのも、わかる。
「まあ、こんなものだよね。簡単にはいかないさ」
「そうだな」
 適当に相槌をうっておく。果たしてあなたはハテナを起こしています、といわれて素直に信じる人間が、どれほどいるだろうか。ウェンディの時のように、本人が困っている状況なら相手も信じてくれるかもしれない。が、起きているハテナの内容を聞いていると、良い夢を見て目を覚ましたいとか、朝一のエンゲージには必ず勝ちたいとか、自分の力では気づけないようなハテナを起こしている人が多い様だ。期待できない。
 俺の起こしたハテナも、ストックにいわれなければ自分のせいだとは思わなかったし。
 ルルがハテナを起こしている人を探すべく周囲を見渡し始めたのを確認して、思い切り息を吸い込む。
 ゆっくり吐き出してから、口を開いた。
「ライを探して話をきいた方が早いんじゃないのか」
 俺たちはハテナを消滅されたいわけではない。ライの話をききたいだけだ。街中の人に声をかけて不審者呼ばわりされるくらいなら、一人の人間を見つける方が手っ取り早い。
 ずっと思っていた。ストックにハテナを起こしている人を見つけて話をきけといわれた時から思っていた。なぜわざわざ遠回りな方法をとらなければならないのかわからない。ハテナを起こしている人が、ライの住んでいる場所を知っているのならともかく。
「セル、きみは人間かい」
 ルルが人の流れを見るのをやめて、俺を見た。言葉の意味がわからなくて、思わず眉を寄せる。
「なんだ、それは」
「人間かときかれたら、どう答える?」
 そんなこと、答えるまでもない。
「変なことをいっている奴だと思って、きかなかったふりをする」
「うん。多くの人はそうするだろうね。超人にきいても、多分そうするよ」
 ルルは俺の答えに満足したらしく、何度か頷いて、左手の人差し指を一本立てた。
「相手が自分のことを知っているか知らないかわからない以上、質問の意図がわからないからさ。ライという人がハテナを起こしている証言か証拠があれば、そこからもう一歩突っ込んだことがきけそうだけど」
「相手に真実を吐かせるだけの情報がないのにぶつかってもかわされるだけ、ということか」
「そういうことだね」
 レトの言葉に頷くルルを見て、しかしこれ以上クールではない行為を続けたくはないから、反論する。
「俺はサリネが、あいつの仲間が、ライがいるからハテナを起こせるといったのをきいたぞ」
「それ、不思議なんだよね。どうして仲間がライバルに情報をまくんだろう」
「俺が知るか」
 炎天下に長時間外にいることと、いわれのない非難を向けられて苛立っていたこともあり、不満を隠すこともなく突き放した語調になってしまった。ルルが肩をすくめる。
「セルのいいたいことはわかるよ。こんなこと続けるより、そんなに悪い人ではなさそうな本人にきいた方が手っ取り早いってことだろ」
 そこまでわかっているなら、なぜ論点をすり替えようとするのかがわからない。ますます腹が立ってきたが、視界に入った人の俺たちを見る目を見て、頭を振った。
 冷静にならなければ。頭に血が上っているのはレトだけじゃない、俺もだ。
 街の人たちは、俺たちを怪しい奴だと思っている。朝早くからここに立って、何人かに意味のわからない言葉をかけては謝罪を繰り返し、あげく喧嘩を始めようとしている。そんな風に見えるのかもしれない。
 本当は意味のわからないことはいっていない。ルルが本当のことをいっているならば。
 俺たちの話を信じていないのは街の人だけではない。俺もだ。俺もルルのいうことを信頼しきれていない。ルルが本当のことをいっている根拠がない。
 さっきの女性は本当にハテナを起こしていたのか。その前に声をかけた人も、前の前の人も、最初に声をかけた人も。みんな、本当はハテナなんて起こしていなかったんじゃないのか。形として視えないものを、どうやって信じたらいい。ジャスミンは嘘をつきそうに見えないから信じられた。でもこいつは、昨日まで超人であることさえいわなかったんだ。
「そうだ」
 振り絞って、なんとかそれだけ口にした。考え始めたら、どんどんこいつを信用できる要素が無くなっていった。落ち着かなければ。落ち着いて話し合って、どうするか決めて目的を終えなけば。
「おれも何がわかればその人から話を聞き出せるかはわからないよ。でも、超人ですかと正面からきいても答えないと思う。追っかけの人もいるんだろう」
 そういえばジャスミンは、予知能力のことを占いだといっていたし、名前がないこともいいづらそうにしていた。人の姿をしているが人とは違う自分のことを、隠したがっていた。ライが超人だったとして大勢の取り巻きがきいている中で正直に答えるとは、確かに考えづらい。
 では、何がわかればライが超人かをききだせるのか。ジャスミンは俺のことを仲間だと勘違いさせてしまったことから話してくれた。ストックは尋ねれば答えたが、影から出てくる、普通の人間にはできないことをしているのを見た後だった。ルルはハテナが見えることを共有する必要がでてきて話した。
 能力を使っている現場で声をかければ、と思ったが、ライは自分は話をきくだけだといっていた。それでハテナを起こせるということは、外から見ている分にはただの会話しかしていないということになる。
「どうした、スードル」
 不意に、レトが俺の後ろを見て身をかがめた。手招きをしている。
 振り返ると、少年がいた。レトの知り合いのようだから、ラズラのところの子どもだろう。
「どうしてここにいるんだ」
 スードルの両肩に手を添えて、落ち着いた語調で尋ねている。
「おねえちゃんに、おにいちゃんがいないわけをきいたから、ないしょできたんです」
「そうか、手伝ってくれようとしたのか。ありがとな」
 レトの言葉をきいて、頭の熱が引いていくのを感じた。俺よりこいつの方が、今は冷静かもしれない。苛立っていたはずなのに。
 レトに感謝されて興奮した様子の少年は、ゆっくりと、しかしはっきりといった。
「ぼく、たぶんだけど、おにいちゃんたちがさがしてるおにいさんにあったよ」
「本当か」
「うん。ともだちとおしゃべりできるようにおねがいしたらいいよって、いわれたんです」
「他には、何かされたのか」
 少年はきょとんとして、指をすり合わせながら考え始めた。
 今の話だと、ライが俺とジャスミンにいった通りだ。話をきくだけ。何も悪いことはしていない。
「ともだちのこと、かっこいいっていってくれた」
「そうか」
 レトが、横目で俺とルルを見た。さがしている相手は悪人ではないと、こいつも思い始めたらしい。
「スードル、その人とどこであったか、おぼえているかな」
 ルルが身をかがめてレトの隣に並んだ。少年は頷く。
「まちの中心。とけいがあるところ」
「時計塔か、ありがとう」
 いってみるかい、と俺たちに視線を向ける。
「会いにいくのは嫌だといっていたのはお前だが」
「早く済むに越したことはないさ、慎重にならないとと思ってるだけ。でも、今いって何かききだせる気はしないから、ちょっとひねらないとね」
「ひねるって、どうするんだ」
 俺の質問にルルがしゃべりだす前に、レトが立ち上がって、スードルの頭にゆっくり触れた。
「お前のおかげで助かった、手詰まりだったんだ。もう少し手伝って欲しいが、オレがいない間ラズラを手伝って欲しい。頼めるか」
 少年は目を輝かせた。褒められて、期待されて、喜んでいるんだろう。
「ぼくがおねえちゃんの力に、なれるかな」
「なれる。オレたちに力を貸そうとここまで来た強い意志があるからな」
「うん」
 断言をされて、少年は力強く頷いた。
「送っていこう」
 レトは少年の手を取ろうとしたが、彼は首を振って手を引っ込めた。
「ひとりでかえれるよ。ぼく、だいじょうぶだから」
 彼は笑って、俺がさっきまで背を向けていた方向に歩いて行く。ラズラの家がある方向だ。
「彼、元気になったね」
「まあな。それで、ルル。ひねるってなんだ」
 かがんだ状態で少年に手を振っているルルを見下ろして、レトが尋ねる。
「誰か一人、願い事があるふりをして、そのお兄さんに声をかけてもらうのさ。それで色々きくんだ。どうして親切に話をきいてくれるのか、とか最近噂になっている願いを探してる人っていうのはあなたですか、とかね」
「そんな方法でうまくいくのか」
「人の悩みをきいて歩く親切なお兄さんが、悩んでいる人の素朴な疑問を無視することはないだろ」
 確かに、取り巻きに囲まれているライが心を弱らせた相手の質問に、なんてことないただの質問に答えなかったら街の女性の間で噂になってしまうだろう。噂には尾ひれがつくものだし、評判を落とさないためにも、あれほど慕われている人の良さそうな態度から考えても、答えてくれるはずだ。
 超人であることの証明になりそうな発言を引き出して、最後に『超人ですか』ときけばいい。取り巻きがいて真実をいい出しづらそうな状況なら、この前みたいに人がついて歩いていない時に。そこまでの情報集めは、相手の良心に期待するしかない。
「なるほど。なら声をかけてもらうのはお前になるが、できそうか」
 レトの言葉にルルがきょとんとした。
「オレとセルは顔も名前も知られている。最も警戒されずに近寄れるのはお前だ」
 ルルが何度も頷く。
「納得だよ、任せてくれ。こういうのは大体提案した人がするものだしね」
 そうはいっても、ライに声をかけてもらうための『願い事がありそうな人』を装うっていうのは、どうするつもりなんだ。泣きわめいたり、考え事をしてる風に歩き回るのか。表面的に他人の考えていることなんてわからないのだから、ライが声をかけてきたら奇跡に近いが。


「英雄になりたいなあ」
 時計塔周辺、人気のない中心街に、ルルは立っていた。ジャスミンとストックの姿は見当たらない。サリネと会えて場所を変えたのだろうと考えて、安堵した。気まずいからだ。
 ルルは時計塔の真下で「英雄になりたい」とか、「春を呼びたい」とか、壮大でよくわからない願いを叫んでいる。やつの様子を見て、このあたり一帯の活気はなくなった。万が一ライが現れた時のため、俺とレトは彼から距離をとって、やつの様子をうかがっている。
「あんな願いごとでライが声をかけると思うか」
「わからん。ただ、あいつには取り巻きが大勢いたから、時計塔の下で願いを叫ぶやつがいることを、話しの種にしていてもおかしくはないだろう」
 あえてさらし者になって、変な噂に期待してライが現れるのを待つのか。気が遠いし、クールじゃないな。
 炎天下の下ではなく、ライが来た時に気づかれないように、かつ、見つかった時に怪しまれないように、吹き抜けの天井がある軽食屋の外席に座っている。太陽の光を遮る天幕のおかげで体温も下がってきたし、頭も冷えた。冷静になれるほどの時間座っているが、人通りは減る一方で、変な願いを叫ぶやつを見に来る人は、多くない。時計塔を囲うようにして店を開いている人たちから小言をもらっているのは見ているが、それだけだ。ライは現れる様子もない。
 もしライが現れることもなくラズラの元に帰ったらどうなるのだろう。ストックに嫌味をいわれるのは間違いないだろうが、そのあとは。サリネから色々きけたから、明日はこれをしようと、新しい提案をされるか、ライを見つけるまで同じことを繰り返せといわれるか、だろうか。
 見つけるまで繰り返せは、さすがにないか。
 ルルに誰かが近づいていることを確認して、思考の海からあがる。あとのことは、もう考えなくてもいい。
 近づいているのは、ライだったからだ。彼が現れた通りから女性が大勢、黙って顔を覗かせているのが見えた。
 ライとルルが言葉を交わしているが、距離をとりすぎたせいでよくきこえない。近づくように提案しようとレトを見ると、真剣な表情で時計塔の下を見ている。
 聞き耳を立てているようだ。
「きこえてるのか」
「ああ」
 レトは集中しているのであろう、表情をいつもよりも一層険しくして、会話をききとろうとしている。
「ルルがどこかで会ったことがないかと、きいている」
 レトの言葉に、離れている場所にいるライが、俺たちを見た。視界に入ったとかなんとなく周囲を見渡したとかいう雰囲気ではなく、まっすぐに。
 俺たちに向かって微笑むライを見たルルは首を振って、手招きをしてくる。
 ばれた、のか。
 不自然な挙動をしたわけでもないのに。なぜばれた。思い当たる節を探そうとして、前も同じようなことがあったと思い出した。
 サリネに手招きをされてアースたちの会話を盗み聞きしようとした時、音を出さないように注意を払っていたはずなのに、気づかれた。あの時も、俺たちに気づいたのはライだった。
 レトとライの耳がいいか、俺が極端に悪いか、どれかだな。
「ばれたよ」
 近づくと、ルルはそれだけいった。俺たちの会話をきかれて見つかるのは想定外だったようだ。
「セル、アースのライバルごっこに付き合ってくれているみたいですね。ありがとうございます」
「いや、俺は」
 お礼をいわれるとは、思っていなかった。ライをおびき出そうとしていたことを、彼は『あくの』とのライバルごっこの延長線だと考えているらしい。まさか、自分が超人だと見当をつけられているなんて、思ってもいないだろう。
 もしかして、遊びに付き合っている、と勘違いしているのなら、聞けば答えてもらえるんじゃないか。
「ききたいことがあるんだが」
「なんでしょうか」
 答えてくれるつもりらしい。それはいい。なんときけばいい。
 超人ですか、なんて直球できけるわけがない。超人ってなんですかなんていわれてしまう可能性もある。ハテナが見えるのか、だとこれも超人ではなかった時になんていわれるかわからない。午前中散々にハテナが見えるなんてありえないといわれたから、疑わしい眼で見られるのは避けたい。ライにも、ライを見守っている取り巻きの女性にも、だ。
「悩みをきいたあと、どうやって願いを叶えているんだ」
「願いを叶えているのはおれではなくて、月ですよ」
 即答された。
「そうか」
 曖昧に頷く。失敗した。そうじゃない。
「この前の、サリネのことなんだが。あの手招きはなんだったんだ」
「そうですね、もちろん話しても構わないのですが、おれも『あくの』の一員なもので」
 今度は拒否された。しかし彼はポケットに突っ込んでいた右手の人差し指を立てて、愛想よくウインクをする。
「勝負をしましょう。おれが出した条件を達成できたら、アースのライバルになんでもお話ししますよ」
「条件というのは」
「森に行ってもらいます。森の中に廃屋があるので、そこから何か一つ、持ち出してきてください。持ち帰ったものがおれが望んでいるものだった場合、おれの負け。何でもきいてください。あ、もちろん、人は住んでいませんし、管理されている場所ではありませんよ」
 そんな勝負、勝ち負け以前の問題があるだろう。
「お前が望んでいるものなんて、その場でいくらでもいい変えれるだろ」
「もちろんです。フェアにしますよ」
 レトの言葉に頷いた彼は、ポケットからシールの束が入った透明な箱を取り出した。
 うっすらと文字が刻まれているのが見える。俺が持っているシールに文字は書かれていないから、ルルが俺の部屋で出したものを同じ、IDシールというもののようだ。アトレイが必死にあのシールを見ていたのは、刻まれた文字を確認していたのかもしれない、と今更思う。
「シール解放」
 ライは一枚のシールを引き抜くと、落ち着いた様子でつぶやいた。IDシールとやらは気持ちを込める必要がないらしい。
 シールは淡い光を放って、白い紙に包まれていく。
 遠くから女性のため息が、きこえた。振り返ると大勢の女性がうっとりした様子でライを見つめている。
 光が消えたときには、ライが指に挟んでいたシールが、小さな紙の包みになっていた。
 あっけにとられた表情で見ていたレトに、ライが紙包みを差し出す。
「これをお渡しします、おれがとってきてほしいものがかかれているので。あなたたちが帰ってきたときにそれを開けばフェア、ですよね」
 あなたたち、といったからには、レトやルルも連れて行っていいらしい。
「その取ってくるものっていうのは、間違いなくその建物の中にあるもの?」
「ある、と噂されているものですよ。おれも入ったことはないので」
 ルルの質問に、しれっと恐ろしい返答をしている。
 噂があるだけで本当にあるかないかもわからないものを、取って来いっていうのか。
 フェアかアンフェアかときかれれば、間違いなくアンフェア。よほどサリネの真意を俺たちに話したくないか、アースのごっこあそびに真面目に付き合っているかのどちらかだ。
「ライバルなら、競い合わなければね。もちろん、強制ではありませんよ。受けるならば明日の昼、持ってきたものを忘れないようにしてこの前会った場所にきてください」
 にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべながら、彼はいった。
 この前あった場所、とは、手が覗いていた路地のことか。
 ルルが小さく挙手をする。
「セルの質問への返答は、彼女たちにきかせたくない内容だったのかい」
 彼女たち、といいながら、彼はライが歩いてきた通りに待機している取り巻きに目をやった。
 なるほど。きかせたくない内容だったから、露骨に渋っているのか。
 でもそれって、どんな話だ。
「どうでしょうか。その質問にも、さきほどの『会ったことはあるか』も、おれに勝てたらお答えしますよ」
 ルルは納得しようとしているのか、ゆっくりと頷いている。レトを見ると、不審そうな目を向けつつも、文句をいう気はない様子だった。
「わかった。勝負しよう」
 どのみち、何かききだせないとストックに何といわれるかわからないのだ。明日の昼になろうが何だろうが、手ぶらでは帰れない。
 廃屋がある場所を示された手書きの地図を渡されて、森に向かった。

すすむ

ホームページを見てくださってありがとうございます!

2020年12月27日にマルソールは移転をしました。

移転したことに伴い、URLが変更になります。
新しいURL:https://tm.memon.site/

過去のURLは2021年6月には見れなくなってしまうので、もしお気に入りに入れてくださっている方、リンクを貼ってくださっている方がおられましたら、上記のURLにリンクを変更していただけないでしょうか。

2012.08.15- Meijitsu Minori.