ストーリー

22話

さがしもの

「その廃屋のこと、お前は知ってたのか」
 ライにしかけられた勝負に挑むべく、森の中を進んでいく。最初に渡された地図に目を通した後、迷うことなく歩みを進めるルルに問いかけた。深い理由はなく、世間話の感覚で。
「場所は知っているけど、入ったことはないかな」
 ルルは足場を確認しているのか、うつむいたまま応える。
「そこに何かあるとか、噂をきいたことはないのか」
「あるけど、本当かどうかはわからない、ただの噂さ。森の中に入ってくる人って少ないし」
 噂に尾ひれがついているといいたいらしい。街には施設が整っているようだから出かける必要もないのだろうと納得しかけて、思わず足を止める。
「なぜ、すき好んでこんなところに住んでいる」
 町には誰かが用意した暮らしていけれる環境がある。数日過ごしたが、不便なことは何一つなかった。わざわざ森の中に住んで、かつ町に出かけるなんて手間でしかない。
「空気か綺麗だからさ。ほら、ついたよ」
 ルルが足を止めるのに合わせて立ち止まり、目を凝らした。
 その建物は、たしかに廃屋だと噂されるにふさわしい外観をしていた。
 小さくはない。見上げるほどの高さがあり、外壁に張り付いている窓から、二階建てなのだとわかる。大きさに反して塗装は所々剥げていて、扉は半開き。夜風にあてられた扉は乾いた音を立てている。その扉をくぐる風の音は、見た目の印象のせいか虚しい気持ちにさせられた。明かりがついているか確認するまでもなく、隙間から覗く屋敷の中は真っ暗だ。
 この外観は、まるで、
「霊でも出そうな場所だな」
 思わず口をついた自分の言葉に、心の中で頷く。
 そう、霊が出そうなのだ。ゲームでよく見たこういうダンジョンのボスは、おおよそが霊的なもの。物理が効かなくて苦労するのだ。
もっとも、俺は霊が実在するなんて思ったことはない。ゲームの中でだけ、やつらは生きている。
「いてたまるか。さっさと用件をすませるぞ」
 レトが他愛ない感想を拒絶した後、率先して前に出て、半開きの扉を叩いた。 俺だって現実に霊がいるとは思っていない。そんなもの、本当にいてもらったら困る。
この前街で見たじいさんの姿がちらついて、頭を振った。
「誰かいないのか!」
 レトが声を張って、返事が返ってくるのを待っている。やつは、こんな建物に人が住んでいると思っているらしい。
「いないと思うよ。野良のトイミューズならいるかもだけど」
 レトの背後から建物を覗き込んだルルがいう。覗き込んで、中の様子が見えないことに気がついたのか、ポケットからシールの束が入った白いケースを取り出した。中身を手の中に広げて、一枚だけを残して片付けている。
「シール解放」
 シールが白い光に包まれると、ふわっと、赤い光の玉が現れた。光の玉はルルがシールを握っている手を離れ、彼の周りを漂い始める。
 その光の玉は、ゲームの魔法使いが使う炎の玉のようだった。思わず光の玉に手を伸ばすと、熱はなかった。
「これ、どうやってだすんだ」
「ライがレトに渡した紙と同じさ。光の玉が出るシールを持って、シール解放っていうだけ。そうだね」
 一人で納得したように頷くと、再び白いケースを取り出した。二枚引き抜いて、俺とレトに差し出す。
「できるだけ離れない方がいいけど、もしものために渡しておくよ。おれとはぐれたら使ってみて」
 シールを受け取ると、無地だったカードに絵と文字が刻まれた。ライが持っていたシールに刻まれていた文字は薄くてはっきり見えなかったが、自分の手の中に入ったシールの文字は読めるらしい。
光の玉が出るシールだとわかった。
「ありがたく使わせてもらう。ところで、これは使い捨てなのか」
「いや、使いまわせるよ」
 レトの質問に、ルルが答える。返事をきいて、レトは眉を寄せた。
「使いまわせるものを、何枚も持ち歩いているのか」
「備えあれば憂いなしというからね。さあ入ろう」
 光の玉を出しているルルが先頭に立って、さっさと入っていった。レトが続くのに習って扉をくぐり、閉めようとして、手を止めた。
 これ、閉じ込められるんじゃないか。
 ゲームのボス戦によくある、倒すまで出られない部屋みたいに鍵がかかるのではないか。そんなはずはない、という気持ちと、建物の不気味な雰囲気を念頭に入れれば閉じてはダメだろうという気持ちが戦い、半開きのままにして二人に続いた。光に照らされた絨毯は赤く、歩くと足が包まれるような弾力がある。外観こそ廃れているが、こんな建物を手放すなんて家主は変わり者だったに違いない。
「正解のわからないものを探すほど困難なことはないけど、張り切って見つけようじゃないか」
 ルルの声が建物の壁に吸い込まれる。入り口に近い部屋からしらみつぶしに確認して、珍しいものがないか確認して歩く。レトがなぜか緊迫した表情で周囲を睨んでいるからか、ただの気まぐれか、ルルはこの建物の噂をしゃべり始めた。
 曰く、この建物は満月が昇る日にしか姿が見えないといわれている廃屋である。この廃屋を探しに出かけた人は姿を消し、帰ってこない。帰ってくるのは、建物までたどり着けなかったものだけだという。建物の中には外に帰る方法が書かれた書籍があるとも、外に出る権利が得られる招待状が隠されているとも、願いが何でも叶う方法が教えてもらえるとも噂されているが、真実かどうかは定かではない。
「ただ一つ間違いないのは、この噂、木の外で伝わってるっていう木の中のおとぎ話にそっくりってことさ。つまり、こどもにいいきかせるための作り話の可能性が高い」
 ルルはまるで信じていないようだが、俺に言わせてみれば逆だ。真実味がある。
 木のなかに引きづりこまれたら帰ってこないというおとぎ話があった木の外から、俺たちは木の中に入ってきた。外に出る方法は噂程度の『エンゲージで経験値を貯める』という終わりの見えない行為だけ。そんな場所にある人が帰ってこなくなる噂。
 つまり、この建物は外につながっているのではないか。外に出られるから誰も帰ってこない。木の外と木の中をつないだ扉は上空に消えてしまったが、ここにもあるのだ。
 だがこの説だと、木の外に帰っていった人がいるということになってしまうのだが。とにかく、ライが欲しがっているのは、外に出るための何かということになるだろう。
 一室の机の上に散らばったものを、ほのかな光を頼りに確認する。紙の束、半分溶けて倒れたろうそく、変なコード。なんてことはない、ガラクタの山だ。
「どんな形のものかは、わからないのか」
「そこまでは。そもそも、噂だしね」
 本棚を漁りながら、ルルが答えた。レトは入り口の隅に置かれた戸棚の中身を、緩慢な動作で確認している。
「これは、盗人のすることだ」
「そうだね。このまま帰ったら約束を破った嘘つきにもなるし。本当に、管理はされていないはずだよ。大丈夫さ」
「管理されてないからいいとか悪いの問題じゃないだろう。市民の手にないものは国のものだ」
 ルルが本の中身を確認する手を止めて、レトを見た。
「木の中に国も秩序もないんだよ、王子様」
 レトが、手に握ったまま動かしていなかった引き出しを力強く引っ張った。引き出しの中身が飛び散り、地面に転がる。
「馬鹿にしているのか、お前は」
 静かな声音だが、どう考えても怒っている。面倒なので、二人のやり取りを無視してレトが散らかした引き出しの中身を確認する。
 ペン、布、読めないいびつな文字が書き込まれている小さなノート。探し物ではなさそうだと立ち上がろうとして、インクのようなものがついた、箱を見つけた。
「まさか、こけになんてしていない。このまま手ぶらで帰っても手詰まりなんだし、開き直ったほうが気が楽になるんじゃないかと思っただけさ」
 箱を開けて、中を確認する。
 箱の中には、また箱が入っている、ように見えた。中央に丸いボタンのようなものがついている。俺は何も考えず、それを押した。
 軽い振動と共に大きな音がしたから、発生源に視線を向ける。
 発生源にはちょうどルルが立っていて、彼は足元を見た。視線を追ってルルの足元を見ると、四角い、穴が開いている。
「え、」
 ルルが何かいうより早く、彼は穴の中に落ちていった。
 部屋は、静かになった。部屋の温度が急激に低くなったように感じる。光の玉は急降下していくルルに付いていったため、視界が徐々に悪くなっていく。
「お前、今、何かしたのか」
 レトが何やら物音をさせながら、四角い箱を握ったまま穴を見ていた俺に問うてくる。
「これだ、地面に落ちていた」
 レトに箱を手渡して、ゲームだとスイッチを押すと道が開くから、と続けようとしてやめる。多分、通じない。
「どれだ、見えん」
 ルルにシールを渡されていたことを思い出して、ポケットから取り出した。シールが天を向いているか床を向いているかわからないが、使う分には構わないはずだ。
「シール解放」
 魔法の呪文を唱えると、カードを中心にほのかに光がついていく。光の玉が出てきて視界がはっきりしたところで、レトの手元に光の玉を近づけるために近づく。
「箱か」
「真ん中の円を押し込んだら、穴が空いたんだ」
 渡した箱を怪訝そうに眺めた後、レトは部屋に空いた穴に視線を向けた。
「よくわからないが、追いかけるぞ」
「深さもわからないのにか」
  レトは足を止めた。自分が足元に散らかしたものを眺め、いびつな文字が書き込まれている小さめのノートを手に取った。穴に向けて投げ入れる。
床にぶつかる音は、しなかった。この建物の絨毯が柔らかいからか、相当深いか、どちらかだ。
しばし、沈黙。
「どの道、おりるしかないだろう」
 それだけいって、レトは穴の中に落ちていった。
 光の玉と共に、取り残される。
 レトのいう通りではあるが、もし降りた先が棘が天を向いた部屋ならどうする。二人は生きていない。俺もそれについていって、一生を終えるのか。でも中を確認する方法はない。
 いくしかないのは、間違いない。
 深呼吸をして、ルルから他にもシールをもらっておけばよかったと、後悔した。メモがかけたり光がついたり、エンゲージ以外にも便利な効果がたくさんあるのだから、もしシールを借りていれば何かが変わったかもしれない。
 息を飲んで、のどが鳴る。木の外から落ちてきたときのことを思い出して、思い切り息を吸い込んでからゆっくり吐き出す。
 口を閉じて、穴の中に飛び込んだ。


 落ちるというのは、落下しているということだ。なのに、穴の中にあったのは狭いか広いかもわからない空間を漂うような浮遊感と、地面に向かってではなく、右へ左へ引っ張られる足場のない不快感だった。
 程なくして、俺の体が地面に向かって落ちていく感覚を感じる。周囲の眩しさに目を閉じたのと同時に、体は砂の中に叩きつけられた。
 口の中に入った砂利を吐き出しながら、頭を上げ、身を起こす。
 先ほどまでいた廃屋のように、暗くはない。明るかった。嗅いだことのない匂いがする。天を見上げると、入ってきたはずの穴はない。日の光が降り注いでいる。雲のない空が広がっていて、俺の周囲には砂が、視界の先には、見たことのない木が連なっている。レトとルルが惚けたように茂みの反対側を見つめているので、立ち上がって目を向けた。
 周囲を見渡そうとして、さっきまでは見えなかった景色に、思わず息を飲む。
 青が広がっていた。空とは違う、深い青。青は砂に向けて進んできては、後退を繰り返している。俺はこの色を見たことがある。ゲームだけじゃない。ジャスミンの瞳の奥に、これを見た。
 俺の眼前に広がっているのは、海だった。
「なんで海が…」
我に返って上空をもう一度見る。入ってきたはずの穴は、やはりなくなっている。
「どうやってここから出るんだ」
 俺の視線を察したレトの言葉に、身体中が冷えていく。そうだ。どうやって出る。
 俺たちは木の外から、出口のない木の中に入った。木の中で、また出口のない浜辺に放り出されたのではないか。
「そうだね、出られそうな場所を探そうか」
 その前に、とルルは足元に置いていた古いノートを手に取った。
「これ、どっちのもちもの?」
 閉じたままのノートを、俺とレトに見せびらかすように左右に振る。
「オレたちのものじゃない。穴の底の深さを確認するために落とした」
「木片とかが良かったんじゃない?」
「穴に落とされた挙句に、追い打ちをかけられたかったのか、お前は」
 つまり、落ちたルルに木片を投げつけるようなことにならないよう、気を使ったらしい。ルルは木片を投げられた場合を想像したのか、顔を引きつらせて首を振った。
「それは勘弁だよ、素敵な配慮をありがとう。とにかくこのノート、二人の所有物じゃないんだね」
「それをライに持っていくのか」
 持ち主の所在を気にしているようだから、尋ねた。廃屋に戻ってから探す時間がない場合、やけになって読めない文字が書かれたノートを渡すつもりなのか。
 しかしルルはこれを渡す気はないらしく、ノートを背中に回した。
「これは渡せない。とてもうまそうな鍋の作り方がかいてある。帰ったら、試してみたくて」
 レトが渋い表情をした。そういえば俺が箱のスイッチを押した時、レトとルルは管理がどうとかで言い合いをしていた。興味があるから持って帰るなんて発言は、話をまぜ返すことになってしまう。レトが口を開く前に、話をそらす必要がある。
 周囲を見渡すと、空、海、砂浜。他には何もない。こんな良い景色の中で言い合いはよせ、ぐらいしか浮かばない。注意をそらせる物を探していると、ルルがノートを背に隠している姿が目に入って、ひらめいた。
「お前、そのノートの文字が読めるのか」
 そうだ。俺がノートを開いた時、走り書きのような汚い文字しか書いていなかったはずだ。読めなかった。
「読めるよ。さあ、出口を探しに行こう」
 ルルも失言に気づいたのか、話をきってさっさと歩き始めた。
「おい、まて」
 レトとルルについていく前に、落ちてきた場所がわかるようにと、茂みの中から木の破片を持ってきて浜辺に突き立てた。しばらく浜辺を歩き続けても、見える景色は変わらなかった。空が紅くなり始めた頃、浜辺を進むのは諦めて、茂みに入った。レトとルルは静かに言い合っていたが、いつしか出口を探すためにも協力するべきだろうという話でまとまり、あたりに生っている果実が食べれるか否か等、くだらない会話をするようになった。文字通りの出口の見えない状況に、自然と口数は減っていく、ことはないらしい。
 聞けば、二人も海は見たことがないらしかった。ゼロが闊歩していた世に生きていたのだから、おそらくそれが当たり前なのだろう。異常な空間に来た不安よりも、素晴らしい景色を見た高揚感の方が勝ったのか、頼れる人が周りにいないせいか、とにかくよくしゃべった。
 空が本格的に暗くなる前に浜辺に戻り、スタート地点を目指す。少しかじって食べれそうだと判断した果実を拾って歩いた。ルルが海水は飲めないとだれかの日誌に書いてあったと主張したから、水分も果実から得るしかない。
 突き立てられた木の破片を見つけて、浜辺から離れた茂みに腰を落ち着ける。 持ってきただけ木の実を食べても、腹は満たなかった。思い返せば朝から歩き通しだったし、時計塔近くの軽食屋で軽く腹を満たした程度だった。あの時食べていない奴もいる。果物なんて可愛らしい食事で、飢えをしのげるはずもない。 俺たちは、いくらか冷静になった。クールに、というより、危機感を持って。 明日の昼までにここを出て、あの廃屋で何か見つけて町まで戻るのは、おそらく無理だろう。出口が見つかればまだ、可能性もあるが。
 日が昇るまでは眠ることにしようと手短に話し、柔らかいという表現とはかけ離れた地面に横になる。寝心地が悪いなんていっていられない。今寝なければ腹は減るばかりだし、廃屋に帰れたとしても休めるわけじゃない。
 目を閉じると、波の音と風の音が聞こえるだけ。二人は寝てしまったのかと思ったが、そうでもなかった。
「さっきのノートに書いてあったのは」
 ルルだった。
「超人を造った人の筆跡の練習、だと思う」
「何だ、それは」
 レトが身を起こすのがきこえて、俺も目を開けた。寝転がったまま、ルルがノートをひらひらと振ってみせる。
 筆跡の練習、ということは似てるけど誰か別の人物の筆跡、ということか。
「超人を造った人、スターリム博士は何年百年か前に生きていたって、みんないうんだ。でも、おれはあの人に会ったことがある、って思ってたんだけど」
 スターリム、聞いたことがある。こいつに会った日、ルルが表紙を眺めていた本の著者だ。
「待て、なんの話だ。わかるように話せ」
 レトが、木の枝を持ってきてルルに握らせた。こいつはスターリム博士のことを知らなかったらしい。俺も、最近きいただけだから同じようなものだが。
「超人を造った人とあの建物は、関係があると思うんだ」
 ルルは枝を使って彼の体からみて縦に、長めの線を引いた。線の頭に、『すごく昔 スターリム』と書き込む。
「昔の世界の技術を蘇らせた、すごい人」
 スターリムに丸をつけて、レトの方を見た。レトが頷くのを見て、話を続ける。
「世間的には、スターリム博士はうん百年前の人間らしい。遺体は残さず、晩年に行方不明になったっていうのが通説」
 すごく昔と書いた部分に丸をした。
「でもおれはスターリム博士に会ったことがある。間違いないはずなんだ。だって、造られたんだし」
 いいながら、線の一番下に『現在 ストック、ジャスミン、おれ』と書いた。
「ただ、博士が生きていたのは、おれ達が今いる時代から途方もなく昔のことなんだ。会えるはずがない」
 上と下を括弧でくくって、ハテナマークをつける。
「これが、ずっとおかしいと思ってたんだ。道ゆく人も本屋の店員さんも、ラズラだって、博士はずっと昔の人だっていうんだから」
 現在と書いた線の上にノートを開いて、置いた。
「このノートを見て思ったんだけど、博士は二人いるんじゃないか。このノートでスターリム博士の字を真似ようと練習している人が、おれが会ったことがあるスターリム博士。何年も前の博士の名前を借りて、字を真似て、超人を造っているんじゃないか」
「超人を造る計画は一般的に知られていないから、普通の人はお前がずっと昔の博士のことをいっていると思った。お前は二人いるとは思っていないから、勘違いをし続けた、ということか」
 俺の確認に頷いたルルは、ただそれだと、と続けようとして、言葉をきった。
「いや、でも今までよりはよっぽどしっくりくるな」
「まだ何か、問題があるのか」
 独り言に口を挟むと、ブツブツ呟いていたルルが顔をあげた。
「博士は、ゼロが現れ始めてから木の外の中心にいる人たちに功績を認められて、ゼロをどうにかしてほしいと頼まれた。だから超人を造っているといっていたんだ。今の話だと、中央の人たちがうん百年前の博士の功績を元に、今の博士を頼ったことになる」
「つまり?」
 レトが続きを促すと、ルルは首を振った。
「よくわからないまま、ってことさ」
 いいながら、地面に置いたノートを拾い上げる。
「ルル、お前、昼間はオレ達にはその話はしないつもりで、ごまかしたんだろう。なぜ今話そうと思った」
 そういえば昼には鍋の作り方が何とか、といっていた。気が変わっただけとは考えにくい。
「最初はストックやジャスミンに心当たりがないか確認したかったんだけどね」
 ルルは俺たちには読めないノートを再びめくった。
「おれ達が今、ここにいるのは超人かもしれないライが、廃屋で何かを探してほしいといったからだよね。彼がもし、あそこにスターリム博士に関わる何かがあるときいて、でも自分では確認に行きたくないと思っていたのなら、このノート」
「ライの探し物かもしれない、ということか」
「そう!そして彼は博士について何か知っているかもしれない」
 やけくそでノートを渡すつもりではないらしい。二つあった目的がひとつになった。これは、大きな進歩だ。
「探し物の候補が見つかったのだから、あとは出口を探すだけか」
「出口ならあるぜ」
 突如としてきこえた聞き覚えのある声に、振り返った。

すすむ

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2012.08.15- Meijitsu Minori.