ストーリー

23話

人ではない人

「アトレイじゃないか。どうしてこんなところに」
 ルルのいう通り、振り返った先にいたのはアトレイだった。
「どうしてって、それをききたいのは俺なんだけどな。あの廃屋の噂、知らなかったのかよ。二人はともかく、お前は」
「知っていたよ、もちろん。知っていたさ。ただ、きみがあの噂を信じているとは、知らなかったな。驚きだよ」
 アトレイの言葉を遮って、喧嘩を売ってるんだか素直な感想をいっているのだかわからない、少なくとも俺には喧嘩腰にきこえる言葉を、淡々と喋っている。
「ルル、火のない所に煙は立たないんだぜ」
 ルルの言葉に腹を立てた様子もなく、アトレイは俺たちとの間合いを詰めた。
「つまりきみは、噂を知らないおれたちが危険な廃屋に入っていく姿を見て、追いかけてきた訳だね。優しいことをするじゃあないか」
「そういう解釈で構わないけど。リアさんにお前の面倒を見てやってくれって、頼まれたんだよ。本当なら見て見ぬ振りをしてたところだが、彼女にシールをちらつかされると弱いんだよ。知ってるだろ」
「そっか、リアか。なるほどね」
「リア?」
 勝手に納得している二人をよそに、俺とレトは首をひねった。ラズラの家にいた子どもだろうか。しかしそれならば、レトが知らない名前なのはおかしい。こいつのために、わざわざ会いにくる子どももいるのに、名前を把握していないわけがない。しかしあそこにいた面子以外が、協力的になってくれるとも思えない。
「こいつのねえちゃんだよ。レアなシールをいっぱいもってて、それを餌にしてくる」
「そうか、姉か」
 アトレイがルルを指差したことを受けて、ぎごちなく頷く。
 俺は、ルルの家で変な扉を見つけた。黄色のペンキが木目に添えずに塗り散らかされた扉の向こうに、ぬいぐるみが整列している部屋があった。あのファンシーな部屋の主が、年上。ストックの部屋かと思ったぐらいだったのに。
 それに、帰ってこないんじゃなかったのか。生きているのか。
 そういえばストックにききたいことがあるはずだった。すっかり忘れていた。ルルにも、彼女についてきくことがあったはずだ。無事に帰ったら、はっきりさせないと。
 ストックは、ジャスミンに関わらない方がいいといったのだ。あのあとハテナを消滅させた解放感で忘れていたが、確かめないといけないことだ。
「話を戻していいか。シールをもらうためにも、あんたたちには無事に町に戻ってもらわないと困るんだよ。今、外の森にはウルルもいるって噂だしな」
 似た名前のやつが森に住んでいるのなら、知っているが。
「ウルルって奴もお前のきょうだいか」
 レトがルルに視線を向けながら口をひらいたら、違うよと否定された。ベラベラ喋り出すのかと思ったが、後に続く言葉はなかった。
「歩きながらでいいだろ。あいつとは遭遇したくない」
 アトレイが先頭に立って歩き始める。ウルルという生き物を知っているルルがさっさとついて歩き、レトが俺の後ろについた。レトとアトレイが名前を伝え合って、しばらくは無言で歩いた。
 三人の時は闇雲に歩き回っていたが、アトレイははっきりと道がわかるらしく、迷いなく歩いていく。茂みを抜けて、整備されていない、岩に覆われた穴をくぐり、所々に何かが埋め込まれた洞窟を越えると、森が広がっていた。廃屋のある森にでたらしい。夜が明けているが、照りつける日差しから察するに、まだ昼にはなっていないだろう。
 間に合った。
「ウルルは人間の姿をしたトイミューズだよ、人の言葉は話さないんだ。唸り声からついた通称がウルル」
 見知った場所に出たから、ルルが説明を始める。
「それは、お前がいっていた環境に適応した姿ではないのか」
 トイミューズを出した時、死んだ人間のトイミューズは環境に適応するために姿を変えるといっていた。
「環境に適応するトイミューズは、環境ごとに姿が決まっているみたいなんだ。おれが住んでる森の中ならうさぎ、とかね。でもウルルは普通の人間と同じ、個体なんだよ。個性がある。大柄で、肩が岩みたいにゴツくて、一目見ただけで彼だってわかる」
「お前らは、そいつにあったことがあるのか」
 レトの言葉に二人は首をふった。
「あるけど、ない。会ったことはあるけど、すぐにいなくなっちゃって」
「そいつは、人を襲ったりするのか。頻繁に現れるのか」
「襲うよ、エンゲージがしたいんだと思う。いっつも歩き回ってるみたいで、定期的に町にも現れるかな」
 そんな奴が定期的に現れる町なんて危険じゃないのか。昼間の活気ある時間に現れたらどうするつもりなんだ。
 アトレイが、足を止めて振り返った。
「レトだっけ。どうにかしようとか、考えるなよ。危険な奴がいるから出会わないように気をつける、それでいいだろ」
「オレが、そいつをどうにかしようとしていると思うのか」
「いや、違うならいい。血の気が多そうに見えただけ」
 アトレイはレトの言葉を信じたらしく、再び歩き出した。
「まあ、もし出会ったら『どうにかするぞ』っていいだしそうだよね」
「どういう意味だ、それは」
「もちろん、そのままの意味だけど」
 アトレイに続いて歩き出そうとしたルルをひっつかんで、問い詰めている。
 一人で歩き出したアトレイからはぐれないように、二人より先にアトレイの後ろについた。
「お前も、アトレイも会ったことがあるのか」
「ああ。ラズラとルルと一緒だった時に」
「ウルルが危険なやつってのは噂だけだろ。詳しく知らないんなら、そんなに警戒しなくてもいいんじゃないか」
「セル、冷静になって考えてみろ」
 俺は常に冷静だ。頷いて、続きの言葉を催促する。
「木の中ではトイミューズが使える。でもウルルを倒した奴はいないんだ。木の外に出るためには経験値を貯めないと、なんて話を信じて経験値を集めているやつにしてみたら、強いと噂のウルルはちょうどいい標的になるはずなのに、倒せてないんだよ。ウルルは人間の姿こそしているが、獣と変わらない。会ったら怪我じゃ済まないかもしれないんだ。そんなやつとあんたらみたいな集団は会わない方がいい」
 前半部分のいいたいことはなんとなくわかる。けど、
「俺たちみたいなって、どんな風に見えてるんだよ」
「危ない場所かもしれないってところにのこのこ現れて、迷子になって帰れなくなる、抜けた連中ってことだよ」
 思わず唸った。これは、悔しいが言い返せない。
「それだけじゃない。レトは自分が世話になったわけでもない施設の面倒みてるらしいじゃん。ルルも施設を出て行ったかと思えば変な女の子の面倒見てるようなやつだし。あんたも、超人とかいうよくわからないものに首突っ込んでる。もしウルルが誰かを襲ってるところに遭遇したりしたら誰か一人は放っておかないだろ」
 そういえばレトに初めて会った時、見ず知らずのウェンディを探していた。今もストックに焚きつけられたとはいえ、非協力的な態度は見せていない。廃屋の物色を渋ったのは人の所持品を漁るのが気に入らなかっただけで、俺たちに協力することを拒否したわけじゃなかった。ルルもラズラが書いた紙切れ一つで俺とジャスミンに友好的に接してきている。
 確かにあの二人は、厄介ごとに首をつっこむかもしれない。
 だが、
「俺は、違う」
 俺は厄介ごとに首を突っ込んでいるわけじゃない。ジャスミンのそばにいるだけだ。ジャスミンは、超人は危ない存在ではないし、ストックにもルルにも腹はたつが、危険な存在だとは思わない。超人かもしれないライも、友好的に接してくれるいいやつだ。
 俺は、ルルが廃屋の穴に落ちた時、レトのように迷いなく降りたりしていない。二人が死んだ可能性を考えながら、一人で帰るわけにもいかず降りただけだ。選択肢がなかったから降りた。アトレイがいうような積極的に厄介ごとに首を突っ込む度胸は、ない。
 アトレイが目を細めた。
「そっか。ならセル、ヘルメット男の件からは引いた方がいい」
「クリアのことか、何か知っているのか」
 アトレイの口ぶりはそういうことだろう。お節介じゃないなら危険なことをしない方がいいということ。クリアをおいかけることを危険だと判断しているということは、何かを知っているということだ。
「今までのことは忘れて、お家に帰って好きなことしてな」
「どういうことだ、それは」
「単純な忠告だ。ついていけないやつらにしがみついていくぐらいなら、さっさと諦めた方がいいぜ」
 ルルが穴に落ちた時のことを思い出して、言い返せないまま足を止める。アトレイは続けた。
「悪いことじゃない。普通の人間が普通の生き方を選ぶのは、当たり前なことだ。俺たちは超とかついてない、普通の人間なんだから」
 俺は選ばれし者じゃない。そんなことはもうわかってる。
「ジャスミンだって、普通の人間だ。ちょっと不思議な力があるだけの」
 そう、ジャスミンだって普通の女の子だ。超人だからってなんでも見通せるわけじゃない。勘違いもはやとちりもする。落ち込んだり喜んだりする普通の女の子だ。
「超人は超能力が使えるんだろ。彼女たちを普通だというなら、俺たちは普通以下だ。おいルル、お前どんな超能力使えるんだっけ」
 アトレイがルルに呼びかける。レトと何かを話していた彼は、渋い表情をした。
「そんな顔するなって。セルが超人のこと詳しく知らないっていうから」
 アトレイが捏造した理由に、彼は納得したらしい。目の前を、指で弾く動作をしてみせた。
「自分を書き換えることができる。失敗する方が多いけど」
 レトが彼の隣で絶句しているのを尻目にかけて、アトレイが俺に視線を戻した。
「だってさ。普通のセルは、そんなことできないだろ」
 もちろんできるわけがない。木の中に入ったばかりの時、ワープができると信じたのは幻想だった。これももうわかってる。
「クリアってやつは、お前らのこと見張ってるみたいだぜ。向こうから何かしてくる前に、普通の人間らしい生活に戻りな」
 アトレイが歩き出しだが、後ろにつく気にはなれなかった。
 俺は今までの生活を不満に思っていた。理由をつけて外に出られない生活。それが、お似合いだっていうのか。
 普通の人間らしい居場所ってどこだ。超能力が使える人間らしさってなんだ。
 超能力は普通の人には使えないものだ。ゲームだと超能力者は非情だったり、どこか人間味がないところがある。
 人間味。人間らしいってことだ。
『食器を選ぶのって好きなんですけど、私が選んでしまうと、年に似合わないものとか、普通は買わないようなものを選んでいたりするかもしれないと思って、そう思うと買えなくて』
 ジャスミンが食器を買うのを躊躇していた理由は、おそらくこれだ。超人が人間味あることをしていては変だと、己を律していたんだ。
 そんなこと、誰も気にしないのに。
 知らないうちに握っていた拳を緩め、顔を上げた。アトレイが振り向くのが見えた。
「もし超人が笑ったら、お前はどう思う」
「なんだよ、それ。超人って肩書きには不釣り合いだと思うけど」
「そうか」
 そんな肩書き、彼女は好きで背負っているわけじゃないんだ。
 ジャスミンに最初の勘違いをさせた時、とても嬉しそうだった。本当のことをいうのが申し訳なるくらいに。
 ウェンディとエンゲージをした後の笑顔も、迷惑をかけようと約束した時の微笑みも、食器を買いに行こうとした時の笑顔も勘違いの後のありがとうございますも、あれが超人であることで否定されるのなら、俺は。
 俺は、とても眩しいと思うから。
「アトレイ。悪いがさっきの忠告、俺はきかなかったからな」
「そうか。まあ、どっちでもいいけど」
 アトレイがさっさと歩き始める。
 何を考えてクリアが俺たちを見張っているのかは知らないし、本当に見張られているのかもわからない。アトレイが適当なことをいっただけかもしれない。
 後ろを振り返ると、レトとルルが何やら言い争っているだけで、クリアの影はなかった。


「お待ちしていましたよ、みなさん」
 アトレイに案内されて町まで戻ってくると、彼はさっさといなくなってしまった。クリアのことは他の二人に共有しないまま。
 後で俺の方から共有すればいいので、本来の目的を果たすべく、路地裏にたどり着いた。
「探し物って、これのことかな」
 ノートを持っていたルルが、ライに向けてそれを振り、見せびらかす。ノートの隙間から文字が見え隠れして、ライの目はノートに吸い寄せられた。
 興味を持っているということは、正解を持ってこれたのか。
「何か持ち出したようですね。ではレト、渡したメモを開いてもらえますか」
「ああ」
 レトはいわれた通り、渡されていた紙切れを取り出し、ひらく。誰よりも早く回答を見た彼の表情は険しくなった。
 レトの様子から、探し物を間違えたのだと悟る。勝負は、負けだろう。
 そう思ったが、続くレトの言葉は違った。
「何もかいてないが、どういうつもりだ」
 レトが紙切れを突き出す。彼の言葉の通り、ライがメモと呼んだ紙には何も書かれていない。
「おれはとってきてほしいものがかかれている、といいました。何もかかれていないのなら、そのままの意味です。ほしいものなんてなかった、ということですよ」
 レトは怒りからか、手を震わせた。左手で右手を抑え、おそらく気性の荒さを抑えたのだろう。
「馬鹿にしているのか、お前は」
 絞り出すような声のレトを横目で見て、ルルが手をあげた。
「じゃあきみは、どうしておれ達にあそこに行ってほしかったんだい」
 ライが、やれやれと首を振った。
 今までのライからは想像がつかないくらい、さっきから態度が挑発的だ。
「いわれないと、わかりませんか。そんなんだから駄目なんですよ、あなたは」
 ただの挑発にしかきこえない言葉に、ルルが息を飲むのがわかった。顔色が真っ青になっていく。そのまま倒れでもするんじゃないかと思うほどに、気分が悪そうに見えた。
あの時ジャスミンから見た俺はこんな風に見えていたのかもしれない。
「きみは、あの人を知っているのか」
「ええ。よく、知っていますとも。おれがこの街の人からどんな評価を頂いているか、知っていますか。気づいていますよね、おれの方がふさわしいって」
 続いた言葉を受けて、ルルがノートを落とした。動揺しているのが手に取るようにわかる。
 話の流れがみえず、きき出せる空気でもないから、黙ってノートを拾った。
「ところであなた、大切な人は元気ですか」
 ライの言葉の意味がわからなかった。ルルも同じなようで、真意のわからない言葉にうろたえて、尋ねる言葉を探しているように見える。
「だれに、何をしたんだい」
「なんの話でしょう。おれは大切な人は元気か、ときいただけです」
 ライはいつか見せた人のいい笑顔を浮かべた。不気味さが勝って、もう人がいいとは思えないが。
 ルルは急いたように何かいおうとして口を開いたが、閉口した。やや間が空いて、今度は言葉を口にする。
「ライ。きみが噂通りの善良な人だと信じているよ」
 それだけいって、ルルは走っていった。『大切な人』の無事を確かめに行ったのだろう。彼が見えなくなり、足音もきこえなくなると、ライがため息をついた。
 俺とレトを視界に入れて、表情を強張らせた。今にも殴りかかりそうな形相のレトにうろたえたようで、慌てたように笑顔をつくった。
「お二人とも、すみません。おれの負けです。なんでもきいてください」
「もう一度きくが、どういうつもりだ」
「彼に行いを反省して欲しかったんです。あなた方も巻き込んで、挑発的な態度をとってしまいましたが」
 レトの言葉に再びすみませんと謝罪する。
「まず、おれは彼の大切な人という方にお会いしたことがありません。彼の行動を咎めるためのでまかせで、何もしていません」
 彼、とはルルのことだろう。
「咎める、とは」
「おれは女性から、色々な噂をききます。彼女達は噂話が好きなのでね。それで、彼のことを知りました。嘘つきだそうです」
「それは知っている」
 思わず同意したら、レトと同時に、同じ言葉を口にしていた。
 そう、奴は厄介ごとに首をつっこむやつでもあるが、同時に嘘つき、というか胡散臭い。悪いやつではないかもしれないが、とにかく胡散臭い。
「怪しい噂を吹聴していたり、エンゲージを申し込まれればそれはできないと逃げ、一人で喋り続ける姿を見た人もいるとか。挙げ句の果てには何年か前、病院に入院している女性を連れ出そうとしたらしいですよ『その人は病気じゃない』と駄々をこねたとか」
『人と話をしていただけだよ』
 ルルの家に泊まった時の、意味のわからない奴の言葉を思い出して頷く。レトも心当たりがあるようで、頷いている。
「カプセルがなんだといっていた」
「本当です、レト。カプセルは本当にあります。飲まないようにしてください」
 すかさずライが訂正したので、彼は首をひねった。
「意識のなくなった人間がどこかで働かされているというのは」
「そっちは噂ですね。カプセルを飲んだ人の中にはいなくなる方もいるので。人を不安にさせるだけの、良くない噂です」
 ライがこほん、と咳払いをした。
「施設で育ったようなので、人に構って欲しいのでしょう。でも度が過ぎているし、彼自身のためにも良くないと思いました。しかし根も葉もない噂だ、とも思っていました。昨日、時計塔の下で一人で願望を叫ぶ姿を見るまではね」
 喉をつたる汗が冷たく感じた。ルルにそんな噂がついて歩いているとも知らず、あいつが人目のつく場所で、構って欲しそうに願いを叫ぶような状況を作った一因は俺にもある。
 提案自体は、あいつのものだったが。
「あれは、お前を引き寄せるための行為だったんだが」
 レトが馬鹿正直に本当のことをいうと、ライは大きな目を見開いた。
 待て。せめて話を最後まで聞いてから弁解してくれ。
「では、おれはただいたずらに、彼に嘘をついただけだと」
「噂がどこまで本当かは知らないが、あれに限っては、そういうことになる」
 ルルを手玉にとっていた頃はどこへやら、今度はライがうろたえ始めた。
「これは、ひどいことをしてしまいました」
「それで、ルルに嘘をつくためだけに、あの廃屋に行くようにいったのか」
 話の軌道を戻すと、ライが頷く。
「そうです。嘘ばかりついているのなら、嘘をつかれる側になってもらおうとね。一度痛い目にあえばホラ吹きもやめるだろうと。ですが、失敗したみたいですね。彼を反省させるつもりが、おれが謝らなければならなくなりました。セルを口実にしたのも、レトを巻き込んだことも申し訳ないです」
 ライが頭を下げてきたので、顔を上げるようにいう。海も見れたし、そんなことは問題ではない。
「それはもういい。さっきあいつと話していた、あの人とかふさわしいっていうのはなんだ」
「ああ、それですか」
 ライは、俺が持っているノートに視線を向けた。
「おれには不思議な力があります。レトに腕相撲で勝ったような力ではなく、超能力とでもいうんでしょうか」
 レトが隣で小さく唸ったのは、きかなかったことにした。
「知っている。俺たちはそういう奴を探していたんだ。お前もそうなんじゃないかと思って、しかし素直に答えてくれるとも思えなかったから、あの勝負にのったんだ」
 ライは、目を瞬かせた。予想外だったらしい。
「それは話が早い。理解してもらえる話でもないので、説明に困りますからね。おれはその能力で悩みを持つ人を不安から解放しています」
「あくのの活動ってやつか」
「そうですね。そんな能力を持っている人は、スターリム博士という人の造った次世代型の人間の試作なんです。彼と話していたあの人とは、次世代型人間を造ろうとしている人物の奥さん。ふさわしいとは、そうですね」
 ライは、言葉を選んでいるようだった。俺の隣でレトが頭を抱えているせいかもしれない。こいつは超人の話には頭が追いつかないようだ。
「試作の中でもっとも完成品に近い、というところですね」
「なるほどな」
 さっきの会話で、ルルもライは超人だと認識していることになる。スターリム博士の奥さんを知っているのかときいたのだから、そうなのだろう。
 ライは超人だった。それさえわかれば、収穫だ。
 ライと別れて、ジャスミンやラズラが待っているであろう施設に向かう。昨日何もいわずに一晩帰らなかったのだ。何をいわれるかわかったものではない。
「ルルは拾っておかなくていいのか」
 レトの言葉に、しばし考える。しかし、『大切な人』に会いに行ったのなら、先に帰っている可能性が高い。
あいつにはやんわりとライの真意を伝えておいた方がいい。今度会った時に、どうなるかわかったものではない。
「おそらく先に帰って、コーヒーをすすっているだろう。俺たちも戻ろう」

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2012.08.15- Meijitsu Minori.